課題は、カレーであった。
「うむ、上出来であろう。」
なべのふたを開けながら真田がひとりごとを呟いた。家庭科の教師が見回りをしている。
「真田は仕上げたのか?」
「はい、先生。あとは煮詰めるだけです。味見をお願いできますか?」
「いいだろう、……む、これは…!!」
「はい、和風にしてみました。」
真田は、いまふうに言うところのドヤ顔である。
「真田、これは、世間では肉じゃがというんだが。」
教師が頭を抱えてどう指導したものかと思案しているころ、幸村の教室にもカレーのおいしそうな匂いが漂ってくる。
そうか、たしか真田が、今日は調理実習があるのだとはりきっていたなと思い出す。
そのなかに、かすかに混じる肉じゃがの匂い。
ああ真田だなとすぐに分かり、思わず顔が緩んだ午前最後の授業であった。
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カレールーに甘んじるのが解せず、つい醤油で味付けてしまった真田のはなし。肉じゃがもカレーも、途中まで工程が同じじゃないですか。真幸に持っていけなかったのが悔やまれる…
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